|
1.はじめに
鉄建建設株式会社は1944年に鉄道輸送設備を強化するという時代の要請により設立されて以来、一貫して交通関連の建設を得意技として実績を重ねてまいりました。山岳トンネルの施工も得意としてきた分野のひとつです。ここでは、トンネル掘削そのものではありませんが、岩盤力学に関わりの深い工事のひとつを紹介いたします。
2.急峻な岩盤斜面の掘削工事
東九州自動車道上野原トンネル(鹿児島県国分市)の終点側坑口上部に、通称「剱岩」とよばれる巨大な安山岩溶岩の岩壁が存在していました(図−1)。この岩壁とその奥に続く台地は、約2万5千年前に形成された姶良カルデラの残存地形です。トンネル坑口直上の岩壁は高低差約50m、傾斜70度以上で全体に柱状節理が発達し、数m間隔の亀裂によりブロック状に分断されていました。また、オーバーハング形状を呈している箇所が随所に見られ、これは、過去における岩盤ブロックの崩落跡であると考えられます。
高速道路の当初計画時点では、景観に配慮して現状のままトンネルを施工する予定でした。しかしながら、豊浜トンネルその他の崩落事故の発生後、安全性の見直しが行われた結果、供用後の安全管理上問題があるとして崖面を1:0.5の安定形状に掘削することに計画が変更になりました。そこで、施工時の安全を確保し、岩盤ブロック崩落事故を未然に防ぐために、岩盤斜面に変位計、地震計、AEセンサー、光波測距用プリズムおよび温度計を設置し、計測管理を行いました。ここでは、工事の概要と、常時微動を震源とした地震計の計測による岩盤ブロックの動的安定性評価について紹介します。

(1)工事の概要
崖部の安山岩には、崖面にほぼ直角に交差し傾斜が90゚に近い節理系が存在し、大きく開口している箇所が多数見られました。また、これと直交するほぼ水平方向で流理面と考えられる数センチ間隔の節理系が存在していましたが、密着しており開口している部分は確認できませんでした。崖面と平行な節理系も部分的に大きく開口していることがボーリング調査等により確認されていましたが、外観から詳細は不明でした。
安山岩の岩塊は比較的密で堅硬であり、事前の地質調査による一軸圧縮強度は、崖の表面に近い部分で約30MPa、深部の新鮮な部分で約160MPaでした。
切取り工事はこの崖面を1.0:0.5の勾配で5段、高低差70mの法面に仕上げるものでした(図−2)。掘削は振動を極力抑えるため油圧スプリッターとブレーカーによる機械掘削工法を採用しました。掘削量は約30,000m3でした(図−3)。


(2) 計測概要
崖面のオーバーハングブロックのうち、もっとも崩落の危険度が高いと考えられる2つのブロックを重点的に計測対象としながら崖面全体を網羅するように計測器を配置しました。図−4に各種の計測器の設置位置を示します。
凡 例
□:地震計
3台
△:変位計
4台
○:光波測距用プリズム 22台
◇:温度計
4台

(3) 地震計
岩盤斜面は崩落までのひずみが小さく、変位計測のみでは崩落の前兆現象を捉えにくく、事前予知が難しいものです。そこで、岩盤ブロックの基盤への付着状態等の微小変化を検出し、崩落の前兆現象を捉えるため、ブロックA、ブロックBと崖面下部の基盤部にそれぞれ三成分が測定できる地震計を設置しました(図−5)。計測は、60秒間の測定を1時間に1回の頻度とし自動計測で行いました。そして、その結果から岩盤の固有周期、振幅、スペクトル等の振動特性を求め、その変化を監視しました。変位という量的な変化からは崩落の前兆現象を早期に捉えることが出来ないため、振動特性の定性的な変化を崩落の予兆として捉えようとした手法です。

(4) 計測結果
掘削開始当初、岩盤ブロックに設置した地震計で観測された常時微動は3Hz付近でピ−クを示していました。このピ−ク周波数が切取り工事に伴う岩盤内部の亀裂の変化により、3Hzから変化する可能性が考えられました。
ブロックAの低周波数領域におけるピ−ク周波数の経時変化を図−6に示します。図−7には、参考デ−タとしてこの岩塊部の静的挙動を計測した変位計の経時変化を示します。各ブロックは当初の予想に反して安定しており、最終状態に至るまで突発的な崩落はありませんでした。そのため、安全性を考慮して、岩盤ブロックが残り数mになった時点で、ブレーカー等で強制的に落石処理を行いました。この図の変位は、その処理に際して発生したものです。

ピ−ク周波数の経時変化では、変位計に変化が生じ始めた時点から3Hz付近のピ−クが低い周波数に移動しているように見られます。このことは、崖面切取り工事により、オーバーハング岩塊背面の亀裂に変化が生じた結果であると考えられます。
今回の地震計による計測では、不安定岩塊部の振動特性が、崖部の切取り工事に伴い変化が現れることが判明しました。次の機会にはこのような変化が、どのようなメカニズムに起因するものであるかについて検証を進める必要があると考えています。
【参考文献】
笹尾春夫、奥園誠之、中原恭憲、今西肇、山内淑人、ZHANG D.:不安定岩盤ブロックが存在する崖面切取り工事における計測管理システム、岩の力学国内シンポジウム講演論文集、VOL. 11、NO. Pt.2、pp. 599-604、2001
(連絡先)
鉄建建設株式会社 エンジニアリング本部 土木技術部 設計第三グループ(電話:03−3221−2298)
ホームページ:http://www.tekken.co.jp/
|