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アイドールエンジニヤリング(株)


1.会社概要

 アイドールエンジニヤリング株式会社は,水資源に関する一切の技術サービスを目的として昭和52年(1977年)に東京都杉並区に設立されました。当社は,ダム技術において,「基礎岩盤はダム本体構造物の一部である」との基本理念のもと,”地質と土木の連携”を最も大切にして数多くのダムの調査と設計などを実施してまいりました。ここでは,当社の岩盤技術のうち,浸透流解析のダム基礎処理設計への応用事例を紹介致します。

 (1) 概要

 ダム基礎岩盤の水理学的安定性に関する検討は,止水処理や浸透破壊に対する安全性を主としたものであり,ダム湛水時の堤体直下または堤体基礎上下流部における浸透流の状況を評価することに他なりません。しかし,調査から設計,本体工事,竣工,湛水までの間,浸透流の状況を実際の現象として評価することは難しいため,概念的なモデルを用いた評価が行われています。簡易的な評価の方法としては,クリープ比,フローネットを用いた検討などが挙げられ,近年高性能化が著しい計算機を用いた浸透流解析手法が,先の簡易的な検討方法に変わり標準になってきています。

 浸透流解析手法の代表的なものに,有限要素法に代表される連続体モデルが挙げられます。ルジオンマップに基づきモデルを構築する場合,実績も多くその有効性はよく知られていますが,一方で割れ目の発達した岩盤に適用するには,連続体に置き換えたモデルを疑問視する声も聞かれます。このことは,図-1に示すように,経験的に割れ目系岩盤中の流れのイメージと解析モデルの流れのイメージが乖離しているためと考えられます。また,現在計画されているダムサイトでは,複雑な地質を基礎とするものが増加していることもあり,実岩盤中の流れの状態を適切に表現できる浸透流解析モデルが必要となってきています。

 このようなニーズに着目して研究開発が行われてきた浸透流解析モデルの一つにDon-Chanモデル(Donen-Saitama Channeling Flow Model)があります。このモデルは,地下水の主要な流動経路が割れ目面であるような岩盤を対象として,埼玉大学 · 工学部と核燃料サイクル開発機構が共同で研究開発を行ってきたものです。その後別のバージョンとして,割れ目系を主体としたダム基礎岩盤への適用を目標とした研究開発が,埼玉大学 · 工学部,水資源機構 · 試験研究所,アイドールエンジニヤリング(株)により共同で行われました。その結果,孔間透水試験や乱流抵抗則を踏まえたルジオンテストのシミュレーション などの実績を上げています。今回,このモデルを用いたダム基礎岩盤処理設計への応用例を簡単に紹介致します。

図-1 割れ目系岩盤のモデル化

図-1 割れ目系岩盤のモデル化

 (2) 水理地質構造を踏まえた浸透流解析モデル

 従来,ダム基礎岩盤の透水性の調査は,ルジオン試験を基本に実施されています。これを基に描かれたルジオンマップは,岩盤の透水量を客観的に評価する上で非常に有効な手法です。しかし,ルジオン値は必ずしも岩盤中の浸透流の状態までを表すものではありません。例えば,図-1に示すように,割れ目を主体とした流れを呈す岩盤であっても,ルジオン値のみを見ていたのでは多孔質媒体的な流れの状態を呈しているのか,割れ目を通るような選択的な流れとなっているのかは判断できません。さらに原位置で調査を実施する技術者と浸透流解析を実施する技術者が同一であることは稀であり,流れの状態が不明確なまま,ルジオン値が一人歩きをしてしまう恐れがあります。つまり,ルジオン値のみから構築されたモデルを用いた浸透流解析では,実際の流れの現象とは全く異なる現象を評価している危険があります。このような事態を避けるために考案された手法が水理地質構造図であり,モデルを構築する際に見落としがちな流れの状態に関する情報も得られ,適切なモデルの構築が可能になると考えます。

 また,浸透流解析でよく用いられる有限要素法は,多孔質媒体のような連続体を想定しており,物性値の設定にルジオン値を透水係数に換算した値を設定することが行われています。このことが,上記のような流れの状態を見誤る要因にもなっていると考えられます。逆に割れ目を主体とした選択的な流れとわかりながらも,有限要素法ではそのような設定が困難であるために,連続体モデルに甘んじている方もいらっしゃったことと思います。このような問題を解決するために研究開発がなされてきた浸透流解析モデルがDon-Chanモデルです。

 (3) Don-Chanモデルの概要

 前述のように,Don-Chanモデルは割れ目性岩盤中の浸透流を解析するために開発されたモデルです。具体的には対象領域中に図-2(a)に示すような割れ目を発生させ,図-2(c)のようにその面上に管路を生成し,割れ目面上の地下水の流れを表現するものです。地下水の流れは,総合した管路網の各交点で流量の連続条件を満足するように,各交点の水頭値を数値計算により求めます。管路内の流れはダルシー則を基本としていますが,乱流抵抗則を用いた解析も可能です。本報では詳細技術の説明は省略いたしますが,興味のある方は次の文献をご参照ください。1998年,土木学会論文集No.596/III-43「孔間透水試験圧力応答パターンの水みちネットワークモデル数値実験による検討」。

図-2 Don-Chanモデルの構築方法

図-2 Don-Chanモデルの構築方法
(a) 割れ目モデル,(b)割れ目の交線部やステップ構造,
(c)チャンネル · ネットワーク図

 Don-Chanモデルの特徴は,三次元モデルの構築が有限要素法よりも簡易であること,割れ目のデータ(走向・傾斜 · 位置)入力が簡易にできるということ,数値計算が比較的速いということが挙げられます。また,三次元可視化技術を利用することで,割れ目の分布状況や解析結果などを視覚的(直感的)に評価することが可能となりました。その一例を図-3から図-6に示します。図-3は解析領域の設定例,図-4は解析領域中に設定した割れ目モデル,図-5は解析結果の例として全水頭分布図を示しています。図-6はDon-Chanモデルを用いて基礎処理の検討を行う際のコンソリデーショングラウチングやカーテングラウチングモデルを示した図です。

図-3 Don-Chanモデル · 解析領域例

図-3 Don-Chanモデル · 解析領域例

図-4 解析領域に設定した割れ目モデル

図-4 解析領域に設定した割れ目モデル

5 解析結果の例

図-5 解析結果の例 · 全水頭分布図
チャンネル · ネットワーク上の全水頭分布

図-6 基礎処理

図-6 基礎処理の検討についての
カーテン · コンソリデーショングラウチングのモデル図

 次に,重力ダムの実地質モデルに透水性分布を仮想したモデルの基礎処理検討事例を紹介します。

 (4) ダムの基礎処理設計と浸透流解析

 基礎処理の設計で重要な項目としては,ダムの性能に関係する貯水池から下流への漏水量,また,堤体の安定性の面から浸透破壊につながる実流速の評価が重要になります。上記のような事項に対する基礎処理技術として,一般にグラウチングによる基礎の改良があります。この他,土質ブランケットといった貯水池側から基礎への浸透流量を抑制する方法などが挙げられます。しかし,実際に湛水が開始されるまで,基礎が浸透流の影響をどのように受けるかはわかりません。そこで,前述のように浸透流解析を利用した評価がなされます。

図-7 Don-Chanモデルにおけるグラウチングの改良

図-7 Don-Chanモデルにおけるグラウチングの改良

図-7 Don-Chanモデルにおけるグラウチングの改良

 図-8は,カーテンおよびコンソリデーショングラウチングによる前述の透水性仮想モデルダムでの性能評価を行った例を示しています。このようにいくつかのケースを設け浸透流解析を実施することで,良好な性能を発揮する基礎処理のパターンの評価が可能になります。この場合は無処理に対してカーテングラウチング,コンソリデーショングラウチングの効果がどのように現れるか,漏水量を基準にして検討を行った結果です。

 漏水量を評価する場合,特に浸透流の流れの状態を評価する必要は無いため有限要素法による解析でも問題は生じません。

図-8 改良効果の検討例

図-8 カーテン · コンソリデーショングラウチングの改良効果の検討例

改良を行っていない無処理時の漏水量を基準として,
カーテングラウチング,コンソリデーショングラウチング処理を実施した場合の
漏水量の低減率から,その効果を判定しようとする検討。

 しかし,例えばフィルダムにおけるコアの浸透破壊に対する問題や岩盤中に浸透破壊抵抗性の低い地質が存在している場合には流れの状態が重要になり,有限要素法で得られる平均流速では評価ができなくなります。このような場合は対象となる媒体の有効間隙率から実流速を求め評価することになります。一方,開口割れ目を通る選択的な高速の流れのような場合は対応が困難になることがあります。また,有限要素法を用いた場合,注意を要する部分の輪郭が明瞭に見えなくなる可能性があります。

 図-9は先に示したDon-Chanモデルを用いてカーテングラウチングの改良範囲を変化させたときの実流速の分布状況を示した図です。この図からわかるように,改良範囲を大きくしていくことで大きな実流速を呈している部分が減少していく様子がわかります。この図は三次元的な情報をある方向から比較した図ですが,実際にはあらゆる方向から確認が行えるため,過度の流速が生じる可能性がある部分を絞り込む作業が行えると同時にどの部分に処理が必要かを抽出することができます。ここに示した例は,浸透流解析を基礎処理設計に反映する際の一部であり,他にも三次元の非定常浸透流解析を用いたリム部の改良範囲の検討など,まだ応用できる部分がたくさんあります。

図-9 実流速分布

図-9 実流速分布

図-9 実流速分布

図-9 実流速分布

図-9 カーテングラウチングの改良範囲を変化させたときの実流速分布

上から,ダム高の1/3の改良範囲の場合,ダム高程度の改良範囲の場合,
ダム高2倍の改良範囲の場合,2Luの低透水部に着岩させた場合の
ダム軸センター付近より左岸側の実流速分布状況を示している。ただし,
1.0×10-5cm/sec以上の実流速を呈する部分のみを表示させたもの。

 (5) 最後に

 今回,浸透流解析のダム基礎処理設計への応用研究事例を紹介させていただきました。繰り返しになりますが,浸透流解析を実施する場合,それ以前に十分な水理地質構造(流れの状態評価など)検討を実施することが最重要と考えます。この検討を経て評価された水理地質構造に対して,適切な解析手法を選択し,モデル構築 · 浸透流解析を実施することが必要です。また,水理地質構造自体が調査の制限や限界による不確実性を有していることから,解析を過信することにも問題があります。しかし,最も有効な評価手段であることに間違いはありませんから,多面的な検討を行うことで,不確実性から生じるリスクを最小限にとどめることを念頭に置いておく必要があると考えます。

 また,現状のDon-Chanモデルでも,まだ検討が必要な部分が多く存在しており,今後も研究開発を行っていく必要があります。機会がありましたらバージョンアップしたモデルをご紹介できればと思っています。


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